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Advanced Interviewアドバンス・インタビュー

2011-10-17 17:30第3回:北海道大学 野口 伸 教授

測位衛星を利用した農機自動走行

 
 
測位衛星を用いた農作業自動化の分野でご活躍されている野口教授にお話を伺いました。

第3回ADインタビュー 北海道大学 野口 伸 教授

――農作業の自動化の分野でご活躍されている野口先生、幼いころからロボットなどに興味をお持ちでいらっしゃったのですか。
野口:私が子供の頃はちょうど高度成長期で、科学技術の進歩が華々しい成長を遂げており何でもできそうな時代でした。ロボットアニメも多く、もちろん鉄腕アトムや鉄人28号、サンダーバードなどのテレビ番組はチェックしていましたね。その影響か小学生の頃からモノを作るのが大好きで、とにかく周りにあるものを分解しては組み立てて遊んでいました。腕時計をばらばらにしてしまったこともあります(笑)今思えば、その頃から先端的な科学技術や世の中の役に立つ技術に興味を持っていたんだと思います。
――小さい頃からロボットが好きな男の子だったのですね。

――農業機械の自動化に携わることになった経緯を教えてください。
野口:北海道出身ということもあって以前から食糧生産や環境などに関心を持っていて、大学では農業工学を専攻、環境にやさしいバイオマス燃料(※1)についての研究をしていました。
農業機械の自動化の実現に取り組み始めたのは研究者になってからですね。最初は“手作りのロボットカ―”の開発から始めました。当初は予算もなく、石井准教授(当時学生)と共に、タイヤや金属板、エンジンまでゴミ捨て場から集めてきて、溶接してフレームを作成していたのです。三角測量とデッドレコニング(※2)という地上システムを用いてロボットカーの位置を計算しコンピュータ制御するというものでしたが、30m×30mの畑で50cmくらいの誤差がでてしまっていました。
大型車両である農機の自動化においては”安全”が大きなキーワードになってくるので、いかに農機の正確な位置を求めるかが重要な課題になってきます。そこで世界中で正確な位置情報を知ることのできる測位衛星が注目されるようになったのです。

※1 バイオマス燃料:動植物から生まれた有機性資源(家畜排せつ物や生ゴミ、木くずなど)を利用した燃料のこと(石油・石炭・天然ガス等の化石性資源を除く)。
※2 デッドレコニング:タイヤの向き、回転数などから位置を求める手法。

――位置を知るための測位衛星が農機の自動走行の分野でも利用されていると知った時は大変驚きました。そのシステムについて簡単に教えて頂けますか?
野口:現在、宇宙には世界中の測位衛星がたくさん飛んでいて、リアルタイムで正確な位置を知ることができます。そこで操舵、変速などをコンピュータ制御した四輪駆動トラクターに測位衛星の受信機をのせて、動いているトラクタ-の現在位置を正確に求めることで、測位衛星を利用した精密な農機の自動走行を実現できるのです。また、あらかじめ走らせたいコースを制御コンピュータに記憶させておくことで、コースからのずれを自動修正したり、自動で旋回させることも可能です。
測位衛星を利用する良さは2つ考えられます。
1つ目は地上での測量に比べ高い精度で位置を特定することができる点です。これにより正確な制御が可能となり、より安全な自動走行を行うことができます。2つ目は様々な場所で位置を知ることができる点です。最近では携帯電波を用いて位置を知ることもできます。しかし、農地は山中など地上電波の届かないところも多いため、遮蔽物の少ない空からの信号を利用することにより自動走行できるエリアが広がりました。

第3回ADインタビュー_デモンストレーション(北海道湧別町) 第3回ADインタビュー_デモンストレーション(第6回ICG)
農作業ロボットについての講演及び実演会(2011/5/30@北海道湧別町)
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)
無人トラクター走行のデモ(ICG6, 2011/09/07@東京海洋大学)
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

――野口先生が測位衛星を用いた自動化の研究を始められたのはいつ頃ですか?
野口:1997年にアメリカのイリノイ大学へ留学したころでした。アメリカの農場は日本とは比べ物にならないほど大規模なので、測位衛星を利用した農作業の自動化の研究が進んでいたのです。1998年にはアメリカで初めてのデモンストレーションも行い、参加者に拍手をもらった瞬間はとても嬉しくて研究者冥利に尽きるといった感じでした。

第3回ADインタビュー_歴代トラクター ――この研究において最も困難な点はなんですか。
野口:基本的に農機は屋外での使用するため、環境の影響を受けやすいということです。農地周辺の環境によっては測位衛星からの電波の受信状況が悪くなることがあります。また農地が傾斜していたり、雨で地面がぬかるんでいる時にでも、安定して常に100%の性能を維持させなければなりません。ラーニングシステム(※3)を搭載するなど改良を進められていますが、これは現在も続く課題です。事前に予測して、あらかじめ補正することができれば最善ですが、まだまだ難しいですね。
――環境と密接した産業なので難しい点がたくさんあるのですね。
歴代トラクター
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

※3 ラーニングシステム:トラクターを一度自動走行させることにより、その場所での傾斜やぬかるみの程度、自動走行への影響を計算して走行に反映させるシステム。

――みちびきを利用した取り組みも行っていらっしゃるとのことですが、みちびきに期待している事を教えてください。
野口:JAXAとの共同研究として2つの取り組みを行っています。
ひとつはGPS補完実験です。
これまではアメリカの測位衛星であるGPSのみを用いていたのですが、衛星配置によっては衛星が低すぎて建物や防風林に遮られてしまい位置を知ることができない時間帯がありました。こうなるとトラクターを自動走行させることができません。農業は天候の影響を大きく受けるため、衛星配置によって農機が動かないようでは困ります。そこに準天頂衛星みちびきが加わることで、天頂付近に長時間測位衛星が存在することになり、“測位できる時間が増える”ことになるのです。後継機が上がればこの効果はさらに期待できますね。

もうひとつはみちびきのLEX信号を用いたGPS補強実験です。
LEX信号で補正データを配信することによりトラクターの現在位置を精度数cmで知ることができるので、より安全な農機の自動走行を行うができるのです。

第3回ADインタビュー_みちびき共同実験(2011年8月) 第3回ADインタビュー_みちびき共同実験(2011年8月)農場風景
みちびきを用いた共同実験の様子(2011年8月) みちびきを用いた共同実験での農場風景(2011年8月)

――今後の課題を教えてください。
野口:“だれでもいつでもどこでも”がひとつのキーワードになってきます。そういう意味で今後の課題としてはロボットシステム安定性とコストの削減、安全性の担保等が考えられますね。現在のシステム改良だけでなく、インテリジェントシステム等にも力を入れていきたいと思います。また、安定性に関しては測位衛星システムの安定性も係わってきますし、システム利用者が増えれば受信機の製作コストもかなり抑えることができるため、みちびきの今後の活躍に期待しています。
またこれは将来の課題になるかと思いますが、熟練の農業従事者のノウハウまではロボットで再現することができません。農業においては人との協調が不可欠だと思っていますので、どこまでを人が作業し、どこからロボットが作業するか、その最も効率的な境界を議論していく必要があると思います。
そういう理由もあって、より多くの人にこの技術を知って頂くために、研究機関やメーカーだけでなく、農家の方などできるだけ現場の方に向けたデモを開催し、コメントをもらう取り組みも行っています。
――まさしく野口先生が幼いころから憧れていた“先端的な技術を用いた世の中の役に立つ素晴らしい技術”ですね。

――野口先生の研究室では農機の自動走行以外にも手掛けていらっしゃると伺ったのですが。
野口:研究しているテーマは主に3つです。
先ほどお話したような農機の自動走行をはじめとした「農作業の自動化」、環境や生育状況を把握することで農業の効率化を図る「リモートセンシング」、生産物の流れを管理するため情報化(IT)を最大限利用した「IT農業」です。これらを組み合わせることで本当の意味での安心・安全で効率的な農業を実現したいと考えています。
第3回ADインタビュー_ビーボ君
ビークルロボティクス研究室イメージキャラクター「ビーボ君」
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

第3回ADインタビュー_野口先生_説明中 ――最後になりましたが、今後の意気込みを教えてください。
野口:熟練農業者が減少し、後継者不足や高齢化で離農する農家が増え、1人当たりの農業規模が大きくなっています。加えて、農作物の自由化が進み、日本の農業は危機的状況と言えるのではないでしょうか。食料は安全保障上は大変重要な問題であり、日本の自給率アップのため自動走行トラクターの必要性は今後より一層高まっていくでしょう。
また、これは日本だけの問題ではなく、農業大国アメリカやアルゼンチンでも深刻に議論されており研究が進められています。日本の武器である工業力を最大限に活かして世界に先立ってロボット農業を実用化し、日本から世界へ発信していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

野口 伸 教授 プロフィール・略歴

北海道大学大学院
農学研究科 教授

1990年-1996年 北海道大学 農学部 助手
1997年-2003年 北海道大学大学院農学研究科 助教授
1998年-2001年 米国イリノイ大学農業工学科 非常勤准教授
2004年-現在 北海道大学大学院農学研究科 教授
2007年-2010年 米国イリノイ大学農業工学科 客員教授
2010年-現在 中国華南農業大学Ding Ying 客員教授
2010年-現在 中国農業大学 客員教授
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