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Advanced Interviewアドバンス・インタビュー

2011-10-17 17:30第3回:北海道大学 野口 伸 教授

測位衛星を利用した農機自動走行

 
 
測位衛星を用いた農作業自動化の分野でご活躍されている野口教授にお話を伺いました。

第3回ADインタビュー 北海道大学 野口 伸 教授

――農作業の自動化の分野でご活躍されている野口先生、幼いころからロボットなどに興味をお持ちでいらっしゃったのですか。
野口:私が子供の頃はちょうど高度成長期で、科学技術の進歩が華々しい成長を遂げており何でもできそうな時代でした。ロボットアニメも多く、もちろん鉄腕アトムや鉄人28号、サンダーバードなどのテレビ番組はチェックしていましたね。その影響か小学生の頃からモノを作るのが大好きで、とにかく周りにあるものを分解しては組み立てて遊んでいました。腕時計をばらばらにしてしまったこともあります(笑)今思えば、その頃から先端的な科学技術や世の中の役に立つ技術に興味を持っていたんだと思います。
――小さい頃からロボットが好きな男の子だったのですね。

――農業機械の自動化に携わることになった経緯を教えてください。
野口:北海道出身ということもあって以前から食糧生産や環境などに関心を持っていて、大学では農業工学を専攻、環境にやさしいバイオマス燃料(※1)についての研究をしていました。
農業機械の自動化の実現に取り組み始めたのは研究者になってからですね。最初は“手作りのロボットカ―”の開発から始めました。当初は予算もなく、石井准教授(当時学生)と共に、タイヤや金属板、エンジンまでゴミ捨て場から集めてきて、溶接してフレームを作成していたのです。三角測量とデッドレコニング(※2)という地上システムを用いてロボットカーの位置を計算しコンピュータ制御するというものでしたが、30m×30mの畑で50cmくらいの誤差がでてしまっていました。
大型車両である農機の自動化においては”安全”が大きなキーワードになってくるので、いかに農機の正確な位置を求めるかが重要な課題になってきます。そこで世界中で正確な位置情報を知ることのできる測位衛星が注目されるようになったのです。

※1 バイオマス燃料:動植物から生まれた有機性資源(家畜排せつ物や生ゴミ、木くずなど)を利用した燃料のこと(石油・石炭・天然ガス等の化石性資源を除く)。
※2 デッドレコニング:タイヤの向き、回転数などから位置を求める手法。

――位置を知るための測位衛星が農機の自動走行の分野でも利用されていると知った時は大変驚きました。そのシステムについて簡単に教えて頂けますか?
野口:現在、宇宙には世界中の測位衛星がたくさん飛んでいて、リアルタイムで正確な位置を知ることができます。そこで操舵、変速などをコンピュータ制御した四輪駆動トラクターに測位衛星の受信機をのせて、動いているトラクタ-の現在位置を正確に求めることで、測位衛星を利用した精密な農機の自動走行を実現できるのです。また、あらかじめ走らせたいコースを制御コンピュータに記憶させておくことで、コースからのずれを自動修正したり、自動で旋回させることも可能です。
測位衛星を利用する良さは2つ考えられます。
1つ目は地上での測量に比べ高い精度で位置を特定することができる点です。これにより正確な制御が可能となり、より安全な自動走行を行うことができます。2つ目は様々な場所で位置を知ることができる点です。最近では携帯電波を用いて位置を知ることもできます。しかし、農地は山中など地上電波の届かないところも多いため、遮蔽物の少ない空からの信号を利用することにより自動走行できるエリアが広がりました。

第3回ADインタビュー_デモンストレーション(北海道湧別町) 第3回ADインタビュー_デモンストレーション(第6回ICG)
農作業ロボットについての講演及び実演会(2011/5/30@北海道湧別町)
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)
無人トラクター走行のデモ(ICG6, 2011/09/07@東京海洋大学)
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

――野口先生が測位衛星を用いた自動化の研究を始められたのはいつ頃ですか?
野口:1997年にアメリカのイリノイ大学へ留学したころでした。アメリカの農場は日本とは比べ物にならないほど大規模なので、測位衛星を利用した農作業の自動化の研究が進んでいたのです。1998年にはアメリカで初めてのデモンストレーションも行い、参加者に拍手をもらった瞬間はとても嬉しくて研究者冥利に尽きるといった感じでした。

第3回ADインタビュー_歴代トラクター ――この研究において最も困難な点はなんですか。
野口:基本的に農機は屋外での使用するため、環境の影響を受けやすいということです。農地周辺の環境によっては測位衛星からの電波の受信状況が悪くなることがあります。また農地が傾斜していたり、雨で地面がぬかるんでいる時にでも、安定して常に100%の性能を維持させなければなりません。ラーニングシステム(※3)を搭載するなど改良を進められていますが、これは現在も続く課題です。事前に予測して、あらかじめ補正することができれば最善ですが、まだまだ難しいですね。
――環境と密接した産業なので難しい点がたくさんあるのですね。
歴代トラクター
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

※3 ラーニングシステム:トラクターを一度自動走行させることにより、その場所での傾斜やぬかるみの程度、自動走行への影響を計算して走行に反映させるシステム。

――みちびきを利用した取り組みも行っていらっしゃるとのことですが、みちびきに期待している事を教えてください。
野口:JAXAとの共同研究として2つの取り組みを行っています。
ひとつはGPS補完実験です。
これまではアメリカの測位衛星であるGPSのみを用いていたのですが、衛星配置によっては衛星が低すぎて建物や防風林に遮られてしまい位置を知ることができない時間帯がありました。こうなるとトラクターを自動走行させることができません。農業は天候の影響を大きく受けるため、衛星配置によって農機が動かないようでは困ります。そこに準天頂衛星みちびきが加わることで、天頂付近に長時間測位衛星が存在することになり、“測位できる時間が増える”ことになるのです。後継機が上がればこの効果はさらに期待できますね。

もうひとつはみちびきのLEX信号を用いたGPS補強実験です。
LEX信号で補正データを配信することによりトラクターの現在位置を精度数cmで知ることができるので、より安全な農機の自動走行を行うができるのです。

第3回ADインタビュー_みちびき共同実験(2011年8月) 第3回ADインタビュー_みちびき共同実験(2011年8月)農場風景
みちびきを用いた共同実験の様子(2011年8月) みちびきを用いた共同実験での農場風景(2011年8月)

――今後の課題を教えてください。
野口:“だれでもいつでもどこでも”がひとつのキーワードになってきます。そういう意味で今後の課題としてはロボットシステム安定性とコストの削減、安全性の担保等が考えられますね。現在のシステム改良だけでなく、インテリジェントシステム等にも力を入れていきたいと思います。また、安定性に関しては測位衛星システムの安定性も係わってきますし、システム利用者が増えれば受信機の製作コストもかなり抑えることができるため、みちびきの今後の活躍に期待しています。
またこれは将来の課題になるかと思いますが、熟練の農業従事者のノウハウまではロボットで再現することができません。農業においては人との協調が不可欠だと思っていますので、どこまでを人が作業し、どこからロボットが作業するか、その最も効率的な境界を議論していく必要があると思います。
そういう理由もあって、より多くの人にこの技術を知って頂くために、研究機関やメーカーだけでなく、農家の方などできるだけ現場の方に向けたデモを開催し、コメントをもらう取り組みも行っています。
――まさしく野口先生が幼いころから憧れていた“先端的な技術を用いた世の中の役に立つ素晴らしい技術”ですね。

――野口先生の研究室では農機の自動走行以外にも手掛けていらっしゃると伺ったのですが。
野口:研究しているテーマは主に3つです。
先ほどお話したような農機の自動走行をはじめとした「農作業の自動化」、環境や生育状況を把握することで農業の効率化を図る「リモートセンシング」、生産物の流れを管理するため情報化(IT)を最大限利用した「IT農業」です。これらを組み合わせることで本当の意味での安心・安全で効率的な農業を実現したいと考えています。
第3回ADインタビュー_ビーボ君
ビークルロボティクス研究室イメージキャラクター「ビーボ君」
((C)北海道大学ビークルロボティクス研究室)

第3回ADインタビュー_野口先生_説明中 ――最後になりましたが、今後の意気込みを教えてください。
野口:熟練農業者が減少し、後継者不足や高齢化で離農する農家が増え、1人当たりの農業規模が大きくなっています。加えて、農作物の自由化が進み、日本の農業は危機的状況と言えるのではないでしょうか。食料は安全保障上は大変重要な問題であり、日本の自給率アップのため自動走行トラクターの必要性は今後より一層高まっていくでしょう。
また、これは日本だけの問題ではなく、農業大国アメリカやアルゼンチンでも深刻に議論されており研究が進められています。日本の武器である工業力を最大限に活かして世界に先立ってロボット農業を実用化し、日本から世界へ発信していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

野口 伸 教授 プロフィール・略歴

北海道大学大学院
農学研究科 教授

1990年-1996年 北海道大学 農学部 助手
1997年-2003年 北海道大学大学院農学研究科 助教授
1998年-2001年 米国イリノイ大学農業工学科 非常勤准教授
2004年-現在 北海道大学大学院農学研究科 教授
2007年-2010年 米国イリノイ大学農業工学科 客員教授
2010年-現在 中国華南農業大学Ding Ying 客員教授
2010年-現在 中国農業大学 客員教授

2011-9-11 00:00第2回:野田 浩幸 ミッションマネージャ

ユーザを見据えた開発を

 
 
みちびきの打ち上げから1周年を記念して、準天頂衛星の新たな顔となった野田浩幸ミッションマネージャにお話しを伺いました。

第2回ADインタビュー JAXA 野田 浩幸 準天頂ミッションマネージャ

――宇宙に興味をもったのはいつ頃ですか。

野田:小学生の頃から友達と天体の話をしていて、夏祭りに行っても夜空を見上げているような天文少年でした。高校では化学部に入部したのですが、実際には新しくできた天文部に入り浸りでしたね(笑)。高校2年の時に天体望遠鏡を買ってもらい、実家の屋上で友人と彗星やカノープスなんかを観ていました。初めて土星の輪を観た時の感動は今でも覚えています。
――かわいい天文少年かと思いきや、小学生の頃から「ベテルギウスは脈動変光星だから…」なんて難しい話をしていたのだとか。

――そんな野田さんの一番印象に残っているのエピソードは?

野田:大学生の時、高校の恩師が作った私設の天文台に時々遊びに行っていました。本当に真っ暗なところで、今のところ一生に一度だけ、かみのけ座(※1)の全容を視認することができたのです。就職後もバイクで離島まで行って星を観たりしていますが、この時の星空が一番感動しましたね。

※1 かみのけ座:4等星以下の暗い星の群れからなる小星座。春のダイヤモンドに囲まれているのでぜひ探してみてください。

――本当に宇宙がお好きだったんですね。お仕事として宇宙開発に係わることになった経緯を教えてください。

野田:大学では電子工学を専攻していましたが、大好きな宇宙開発に携わる仕事がしたいという思いはずっと持っていました。しかしどうすればそのような仕事ができるか分からず、大学生の頃に愛読していた雑誌『sky watcher』の編集部に問い合わせたんです。そこでNASDA(現JAXA)の連絡先を教えてもらい、募集要項を手に入れて、、、今に至ります。今考えるともっと簡単な確認方法があったと思いますね(笑)

第2回ADインタビュー 技術試験衛星「きく8号」(ETS-VIII)

――入社前からその抜群の行動力の片鱗がみられますね。入社直後はどのようなお仕事をされていたんですか。

野田:最初の配属先は機器部品開発部(現 研究開発本部)でした。ETS-Ⅶ(技術試験衛星「きく7号」)ランデブーレーダ(※2)用のレーザーダイオードの研究に携わり、入社3年目で“自分が作ったものが宇宙に打ち上げられる”という貴重な体験をすることができました。
その後、 ETS-Ⅷ(技術試験衛星「きく8号」)プロジェクトに異動となり、測位の分野に足を踏み入れることになりました。測位に関して素人であったため、最初は図書館に通いつめてひたすらに勉強しましたね。

※2 ランデブーレーダ:他の衛星までの距離と方向を測るレーダ。レーザーを放射し、ターゲット衛星のリフレクタ(鏡)による反射光を検出する。

――その後ETS-Ⅷに12年も係わってこられた野田さん。準天頂衛星プロジェクトへの配属が決まった時はどうでしたか?また、プロジェクトではミッションマネージャとしてどのようなお仕事をされていましたか?

野田:ETS-Ⅷで長年測位システムを開発していたので、実験までやりたいなと思いました。しかし、準天頂衛星は開発の向こうにユーザのいる“実用機”を前提としている点が非常に興味深かったので、「やりがいはあるな」と感じていました。準天頂衛星プロジェクトでは、測位ミッションに関する技術検討やコンポーネントの製造・試験の管理など様々な業務を行っていました。複数の測位信号を合成してトータル数百Wになるような信号の合波器の作りこみには特に苦労したのを覚えています。プロジェクトの終盤にミッションマネージャになってからは、測位信号のアラートフラグ(※3)を降ろすことに全力を注ぎました。結果、実験開始後半年でリアルタイムでのGPS補完精度目標を達成し、2011年6月にアラートフラグを降ろすことができました。実用衛星に向けた第一歩を踏み出したということで、ミッションマネージャとしてはこの時が一番嬉しかったですね。
アラートフラグを降ろした当日に関係者全員で打ち上げをしたのですが、現場の担当者が“この仕事が楽しくて仕方がない”と言った言葉が今でも忘れられません。

※3 アラートフラグ:信号の品質の状態を表しており、アラートフラグが立っている衛星の信号は、受信機において測位の計算に使用しない。準天頂衛星においても、打ち上げ以後、信号の品質や信頼性が確認できるまではアラートフラグが立てられていた。

――準天頂衛星プロジェクトの印象を聞かせてください。

野田:異動した当時はプロジェクトマネージャは40代前半、プロジェクトメンバーの大半が30代で非常に若いプロジェクトという印象を持ちました。人数は最大でも20名くらいで非常に忙しかったですが、壁にぶつかっても若さという勢いで壁をぶち壊していたイメージがあります。審査会の前など、時には冗談を言い合いながら日付が変わる頃まで議論する活気のあふれたプロジェクトであったと思います。プロジェクトマネージャは大変だったと思いますけど(笑)

――幅広いお仕事をされ多忙だったプロジェクト時代。当時の趣味はお菓子作りなんていう意外な一面も見せてくださいました。

第2回ADインタビュー 打ち上げ日の管制室 第2回ADインタビュー オフィス
打ち上げ日の管制室 オフィス

――打ち上げが成功してから一年を迎えましたが、それ以後はどのようなお仕事に取り組んでいるのですか。

野田:現在においても衛星の軌道・時刻推定精度の改善のために実験と解析を進めています。
目標はIGS(※4)の精度に近づくことです。IGSはこれまで蓄積されてきた多くのデータと世界中に多数の地上局(約250局)を持っているため、非常に高い精度で軌道・時刻を推定する技術を持っています。そこでJAXAでも、現在マルチGNSS(※5)実証実験キャンペーンにおいて国際的に地上局を募集し、より多くの地点でデータを収集する計画を進めています。
準天頂衛星の軌道・時刻を推定しているアルゴリズムは純国産です。これをさらに高精度なものにして世界にアピールできるよう力を注いでいきたいと思っています。

――野田さんの準天頂衛星に対する思いが伝わってきました。

※4 IGS(International GNSS Service):測位衛星に関する情報を提供している国際組織で、世界中の大学や研究機関などが参加している。

※5 GNSS:Global Navigation Satellite System(全世界的航法衛星システム)の略称。アメリカのGPSやロシアのGLONASS、ヨーロッパのGalileoなどの測位システムやそれらの補強システムの総称。

第2回ADインタビュー MCS(マスタコントロール局) 第2回ADインタビュー 準天頂衛星初号機「みちびき」
MCS(マスタコントロール局) 準天頂衛星初号機みちびき

――現在は利用推進のお仕事もされているそうですが、準天頂衛星の利用実証に関しても教えてください。

野田:多地点・多利用形態において準天頂衛星の効果を検証するため、日本各地において流通、運輸などの様々な機関・企業の方々と協力し、GPSの受信が困難な森林部や都市部における定点及び移動体観測を実施しています。
また、準天頂衛星の測位信号に含まれている誤差補正情報をGPSと組み合わせると、数十cmの精度で測位ができます。これを利用してGPS受信機を搭載した自動走行トラクターによる精密農業や波高検知、電波遅延を利用した可降水量測定等、大学や各機関との共同研究にも意欲的に取り組んでいます。

――今後の意気込みを教えてください。

野田:準天頂衛星の測位信号はすでにユーザで使用できる状態になっています。できるだけ多くの人に使って頂き、その効果を実感してもらいたい。そのための環境、仕掛け作りに力を注いでいきたいですね。

――最後に、野田さんにとってずばり準天頂衛星「みちびき」とは?

野田:入社4年で測位の分野に足を踏み入れてから、16年間測位衛星に携わってきました。もう、どう考えても今後も測位衛星にかかわっていくだろうと思います。その意味で、

私の人生を“みちびいてくれた”存在

といえると思います。

第2回ADインタビュー 議論中

――ありがとうございました。

野田 浩幸さんプロフィール・略歴

(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙利用ミッション本部利用SE室、衛星利用推進センター併任 準天頂ミッションマネージャ

1992年 宇宙開発事業団(現JAXA)入社 機器部品開発部に配属
1996年 技術試験衛星ETS-VIIIプロジェクトに配属
2007年 準天頂衛星システムプロジェクトチームに配属 (2010年ミッションマネージャ就任)
2011年 プロジェクトの解散に伴い利用SE室(衛星利用推進センタ-併任)へ異動、現在に至る。

2011-2-14 15:15第1回:小暮 聡主任開発員

準天頂衛星システムの立ち上げから関わるJAXA衛星利用推進センター/準天頂衛星システムプロジェクトチームの小暮 聡主任開発員に宇宙開発に携わるきっかけ、これまでのお仕事内容、みちびき開発における苦労などのお話を伺いました。

――宇宙開発に携わるようになったきっかけは何ですか。

小暮:さかのぼると子供の頃から宇宙やSFが好きでした。小学生のときに初めて父親に連れて行ってもらった映画がスターウォーズで、それがあまりに衝撃的でその日は興奮して眠れなかったぐらいです(笑)それに星空を見るのも好きで、幼稚園の頃は星座やそれにまつわるギリシャ神話をたくさん覚えていました。そういうこともあって、大学進学の際には航空学科を選びました。当時は宇宙飛行士になりたいと思っていましたね。

――大学では宇宙に関わることを学ばれていたのですか。

小暮:数値流体、計算機流体力学を研究テーマとして扱っていました。計算機を使って、真空までは行かないのですが、空気が薄くて、粘性が無視できる環境下での衝撃波の形成、伝播の様子や平板に流体を噴きつけた状態をシミュレーションしていました。応用例としては月面に着陸する際や離陸した直後など、ロケットエンジンから噴射したジェットが作る流れ場のシミュレーションに使えないかと考えていました。

―― これまでJAXAではどのような仕事をされてきましたか。

小暮:NASDA(現JAXA)に入社して2年間は筑波宇宙センターの中央追跡管制所に勤務になりました。そこは周回衛星の運用管制を行う部署で、ちょうどMOS-1(海洋観測衛星「もも1号」)の後期利用段階が終わるところで、色んな運用実験を経験できましたね。その後東京の本社・追管に異動になり、予算や業務計画を担当することになりました。筑波に戻ってきてからはミッション推進センターという部署で小型衛星や大学のミッションに関わって、その経験もあって小型衛星のプロジェクトをやっているアメリカのコロラド大学に1年間留学して宇宙機システム設計コースを受講、修士をとってきました。

―― アメリカ留学中の生活はいかがでしたか。

小暮:元々2年の修士課程を1年で取るために、かなりきつい1年でしたね。入学した初日に大学の学生窓口の人に1年では無理だと断言されてしまいました。そうはいっても直属の上司からは「君なら1年で帰ってこられると信じている。」、と言われてしまって・・・その1年間は授業に出て、家帰って宿題して、の繰り返しの毎日でした。

留学を終えて衛星ミッション推進センターに帰ってきたころ、民間が準天頂衛星システム計画を立ち上げようとしていました。それが2001年のことです。準天頂衛星システムの当初の計画は、民間の提案からスタートし、民間が準天頂衛星システムを使った移動体通信・放送事業を行い、官が衛星測位の研究開発を民間の衛星に相乗りさせるという官民連携によって行う予定でした。その頃は自分と上司の2人しか担当がいなくて、そんな中で、官民共同の技術検討部会や、日米GPS会合のテクニカルワーキンググループが立ち上がり、人手が足りなくて苦労しましたね。

―― 現在、準天頂衛星プロジェクトでの担当は何ですか。

小暮:準天頂衛星システムの営業、利用推進です。準天頂衛星システムはかなり応用範囲が広いため、色んな分野で使っていただけると思っています。現在はJAXAが行う多地点・多利用形態での技術実証実験に色んな企業や大学等に協力を呼びかけています。

―― 企業や大学等の参加状況はいかがですか。

小暮:多地点での準天頂衛星の効果を実証するために、タクシー会社やトラック運送業者、宅配事業者の方々に協力していただいてデータを取得することになっています。準天頂衛星初号機「みちびき」は昼間に日本上空にいるとは限らないので、夜間でもデータを取っていただけるよう、昼間だけでなく、夜間でも業務で市街地を走行している業態の企業の方に、データ取得への協力をお願いしたのですが、「みちびき」の注目度も高くなってきたのか、非常に積極的にご支援いただくことになり、大変感謝しております。データ取得のための機材を開発中で現在、準備段階ですが、日本中からたくさんのデータが集められて、「みちびき」の効果が検証されることを楽しみにしています。

さらに、データを取るだけではなくそのデータを使って火山の調査、自動車や鉄道の保安システムへの応用など、みちびきによる可視性の改善に期待して様々な研究に使いたいという積極的な大学や企業もいて、JAXAとの共同研究として進めたいと思っています。多地点・多利用形態での補完効果検証は、改善効果を確認するだけでなく、効果の限界、さまざまな条件下での効果を把握することが重要で、得られた知見を、これらの研究機関、企業とも共有して、新たな利用につなげて行きたいですね。

また、国際的にはマルチGNSS実証実験キャンペーンという枠組みの立ち上げを国連のGNSSに関する国際委員会を通じて呼びかけています。世界でいち早く多くの次世代測位衛星が利用できるアジア・オセアニア地域におけるGNSS(※)の利用促進のため、共同開発や共同実験を呼びかけています。

※1 GNSS:Global Navigation Satellite System(全世界的航法衛星システム)の略称。アメリカのGPSやロシアのGLONASS、ヨーロッパのGalileoなどの測位システムやそれらの補強システムの総称。

―― 開発初期から準天頂衛星システムに携わられているということですが、何か苦労した点などありますか。

小暮:今も悩んでいますが、GPSというシステムがあまりにすばらしいシステムであるために、GPSを補完補強する「みちびき」のキラーアプリケーションは何か?という問いかけへの答え探しが難しいですね。既に多くの方々がGPSを使っているので、準天頂衛星システムが完成すれば皆さんに使っていただけることは自信を持って言い切れるのですが、皆さんGPSの限界をさまざまな工夫をしながら使われているので、今の段階でやるかというと、どうしても慎重になる方々の方が多いんです。

やっと「みちびき」が上がって、戦略本部でも後継機の議論が始まったということで、民間企業も、実証実験等への参加に積極的になりました。

衛星開発においてはアンテナが難しかったです。初めは測位だけでなく通信ミッションもあったので、アンテナを指向させる方向やアンテナの搭載場所など、課題が多かったです。測位単独ミッションとなった後でも、みちびきは測位信号の種類が多く周波数の帯域が広いので、1本のヘリカルアンテナの形状、巻き方、素子数、給電方法、アレイ配置などに工夫が必要でした。GPSやGalileo(ヨーロッパが開発するGNSS)など同じ周波数を使用する測位システムと干渉が起きないよう、国際調整した範囲で性能を出さないといけなかったので苦労しました。

また軌道パラメータのチューニングも大変でしたね。アンテナの性能とも関連しますし、運用性や燃料の消費による寿命とのトレードオフを行い、最適なものにしました。

―― 最後に準天頂衛星システムへの思いと、今後の意気込みをお聞かせ下さい。

小暮:準天頂衛星システムを使った衛星測位技術の応用によって、高齢化社会、食料の自給率、環境といった日本が抱えている問題点に貢献できるといいなと思っています。また、どこでも位置情報が得られるというシームレスな測位環境に向けて、今後もIMES(※2)なども含めた開発を行っていきたいと考えています。

※2 IMES:Indoor Messaging Systemの略称。 みちびきと同じ信号形式で受信が可能な屋内測位システム。

―― ありがとうございました。

小暮 聡さんプロフィール・略歴

(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

 宇宙利用ミッション本部 衛星利用推進センター

 準天頂衛星システムプロジェクトチーム併任

1993年 宇宙開発事業団 入社 中央追跡管制所に配属
2001年 アメリカ留学から帰国後、ミッション推進センターにて準天頂衛星システムの立ち上げに従事。その後準天頂衛星システムの開発に関わりながら現在に至る。
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